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2021.06.19 競技サポート

陸上400mの佐藤恵斗君、データの活用で初の全国制覇!

6月4日から3日間にわたって開催された「2021日本学生陸上競技個人選手権大会」の男子400mで、佐藤恵斗君(体育学科2年・国分中央高校)が、4699の好タイムで自身初となる全国大会優勝を飾りました。この裏には、データに基づくトレーニング計画と緻密なレース戦略がありました。

彼の担当コーチである梶谷亮輔コーチ(体育学科講師)は、400m選手のコーチングを行う際、選手のレース映像から各地点の通過タイムを分析し、トレーニング計画やレース戦略を決定しています。表1は、佐藤君の各レースにおける400mのタイムとその際の300m通過タイムを示しています。この表から、佐藤君のこれまでのレースでは300m35秒前後で通過していることが分かります。

400m走を速く走るためには、最大スピードとスピード持久力の両方が重要であることはもちろんですが、それらに加えて適切なペース配分で走ることも求められます。そのためには、トレーニングの段階から目標タイムで走るための目標通過タイム(150m250m300m)を把握しておく必要があります。その際に梶谷コーチが参考にしているのが、表2に示した400m走におけるモデルレースパターン(山元ほか、2017)です。

4725の自己記録を持つ佐藤君の目標は46秒台。この記録を出すためには、300m34秒以内で通過することが求められます。しかし、5月に開催された中四国インカレでは、その記録を狙いすぎて前半の動きが悪くなり、347を要していました(フィニッシュタイムは4766)。そのレースの振り返りから「頑張って走った34秒以内」ではなく、「力むことなく楽にスピードを出した結果としての34秒以内」で300mを通過する必要性が浮かび上がりました。

そこで、3週間後に控えた今大会に向けて取り組んだのは、最大スピードの強化とペースをコントロールして力まず走る技術を身につけることでした。最大スピードの強化は、品田直宏監督(体育学科講師)の指導の下、各種ジャンプトレーニングや筋力トレーニングの動きを一から見直しました。また、中四国インカレのレース中にはバランスの悪さが見られたことから、廣重陽介トレーナー(体育学科准教授)と連携し、足首周りのトレーニングを実践しました。さらにペースのコントロールについては、タイムを意識しすぎて急なギアチェンジをしてしまう癖を見直し、300m200mを一定のペースで走るトレーニングを実践しました。

このように綿密なトレーニングによって弱点を克服して迎えた日本学生個人選手権大会の初日。入賞を目標に今大会に臨んだ佐藤君にとって一番の山場となるのは準決勝でした。レース前の戦略ミーティングにおいて、品田監督と梶谷コーチの考えていたレース戦略は一致していました。他大学の選手の予選通過タイムとこれまでのレースパターンを基に決定された戦略は「後半勝負」。400mのタイムを上げるためには前半のスピードを高めなければなりませんでしたが、準決勝で戦う選手たちの予選タイムは似通っており、確実に決勝に進出するためには勝負に徹することが有効であろうと考えたのです。迎えた準決勝、佐藤君はコーチ陣から伝えられた戦略通りのレースを展開、先頭のはるか後方で300mを通過すると、最終100mで前を行く選手を次々と抜き去り、予選よりもタイムを上げて、組2着(全体では8番)で決勝進出を果たしました。

大会2日目に行われた決勝は、初日とは打って変わって晴天となりました。目標であった入賞が確定し、この日の佐藤君の目標は自己記録更新と46秒台突入でした。しかしながら、準決勝の300m通過タイム(353)では、自己記録更新が困難であることは明白でした。そこで決勝レース前、コーチ陣からは、「前半のスピードを上げること」と「急激にスピードを上げず徐々にスピードを高めること」がアドバイスされました。このアドバイス通り、準決勝よりも高いスピードで前半を走った佐藤君の300m通過タイムは34秒1、46秒台突入は最後の100mでの頑張りにかかっていました。ここでキーになったのが、もう一つのアドバイスである「急激にスピードを上げず、徐々にスピードを高めること」でした。これによって前半での無駄なエネルギー消費を抑えられたことが最後の100mにいかされました。大逆転を果たした準決勝での良いイメージとも相まって、最後の100m128で駆け抜けた佐藤君のフィニッシュタイムは4699。勝負を意識した準決勝から一転、記録を目指して、この日にできる最高のレースパターンを徹底したことで、うれしい全国初優勝まで掴んだ瞬間でした。

IPUスポーツ科学センターでは、今年度より、競技現場での測定・分析によってパフォーマンス向上を図る「パフォーマンス分析プロジェクト」をスタートしました。今後の大会でもデータを活用しながら、記録の向上、そして全国レベルでの活躍を目指します。

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