長い距離を楽に速く走るには何が必要でしょうか?やっぱり「スタミナ」ですよね!たくさん走り込んでスタミナをつけ、疲れにくい体を作ることは当然大切です。しかし、それだけで十分でしょうか?車に例えてみると、ひたすら走り込んでスタミナをつけるトレーニングは、エンジンの馬力を増やしたり燃料タンクを大きくしたりする改良に近いです。これでも十分速くなりそうですが、燃費を改善しなければ無駄に燃料を使い続けてしまいます。では、人間の運動中の燃費(エネルギー効率)を改善するにはどうすればいいのでしょうか?今回はその方法として「バネの改善」を紹介します。
トップアスリートの動きを「バネのある動きだ」と表現することがありますが、人間の体には文字通りバネのようなシステムが備わっています。それは筋腱複合体と呼ばれる筋肉と腱のセットです。筋腱複合体は急激に引き伸ばされた後に強力に収縮する特性(SSC)を持っています(左図)。反動をつけることで高く跳べたり速いボールを投げられたりしますが、この反動時に働いているのがSSCです。
ここまでは聞いたことがある人も多いかもしれませんが、SSCはエネルギー効率にも影響します。ランニング中は地面を蹴ることで前に進みますが、地面を蹴るためには筋肉を収縮して脚を伸展する必要があります。筋肉を収縮する度にエネルギーが消費されるため、たくさん走ったり速い速度で走ったりするとエネルギーが枯渇し、疲労に至ります。一方で、ランニング中は地面を蹴る⇔跳ぶを繰り返すため上下動が伴います。この上下動の中でバネを効かせる(脚が地面に着いた瞬間に筋腱複合体が引き伸ばされ、地面を蹴る時に強く収縮する)ことができれば、筋肉で消費される体内のエネルギーを節約できます。バネの効きが良い選手と悪い選手が同じスピードで走った場合、後者の方が疲労しやすいのです。
バネを効きやすくするためには、ジャンプトレーニングでSSCを強化することや、適切な接地でバネを引き伸ばしやすくすることが重要です。本学陸上競技部の吉岡コーチもバネの改善を重視したトレーニングを取り入れることで、多くの強豪選手を輩出してきました。また、バネの効きを調べるためにスポーツ科学センターではドロップジャンプテストを実施しています。定期的に行うことで、バネの改善度チェックはもちろん、疲労状況のモニタリングにも役立ちます(右図)。
ということで、長い距離を楽に速く走るためには、走り込んでスタミナをつけるだけでなく、バネの改善も取り入れてみましょう!バネの改善にはプライオメトリックトレーニングが効果的ですが、強度の高いトレーニングなので、簡単で軽いものから始めてください。弾むような走りを身につけ、弾むような心で走りましょう!