カルティベイティブプロジェクト ⑤サッカーから学んだミュニケーションの大切さ
⑤サッカーから学んだミュニケーションの大切さ
辻 サッカーではなく、障害の方々もそうだし、年代を超えてもそうだし、技術レベルを超えてもそうだし、つながっていく
ためのキーワードがコミュニケーションということで、どんなことがコミュニケーションとして大事だと思っていますか。
もしくは、何がコミュニケーションだと思いますか。
石川 まずは、相手のことを知りたいのであれば自分のことを知る。自分のことをもっともっと知ってほしいし、まずは自分に
矢印を向けてほしい。どうしても外に目が行き、何々のせい、環境のせい、人のせいと、それはスポーツをする上でも
一緒です。
辻 一緒だね。
石川 いろいろな選手を見てきましたが、長くやる人で能力的にも高い人は、そういう部分で言うと、こちらです。
辻 明らかに、これがあるのだね。
石川 痛いぐらい、もう自分に向いています。長友佑都とか(笑)。
辻 コミュニケーションというと、とかくこちらに行きがちだけれども、こちらができない人はコミュニケーションができに
くいということだね。
石川 だから、言葉はおかしいかもしれないけれども、自分とコミュニケーションをとるというか、本田圭佑選手が「リトルホンダ」
と言いましたが、あれは間違っていないと思います。ちゃんと自分のことを客観的に見られる自分がいて、そういう自分と
会話をする。それはたぶん、イチローさんも一緒だと思います。
辻 みんな自分に向かうベクトルがあり、コミュニケーションしていく。でも、いま全体的には自分と対話するより、スマホと
対話している人が多いじゃないですか。
石川 そうですね。僕もスマホを見ますけれども。
辻 僕もないと仕事ができないけれども、いま全体的な社会の風潮として、コミュニケーション、自分への対話が落ちてきている
中で、スポーツの果たす役割、逆にスポーツ界でもそういうことがなくなってきているので、こういう思いがあるとか、
その辺はどうですか。
石川 僕はスポーツ界にずっといたので、サッカー界にそれを生ませたいとは思っていますが、根本を見たら、サッカーをやる人、
やらない人がいるじゃないですか。
辻 もちろん。
石川 僕の中ではFC東京にいて、まずFC東京の中をよくしていきたいと思うのですが、それだったらもうサッカーを知らない、
それこそ地域の方々やそういう人たちのマインドが変わってきて、スポーツで変えることもそうですが、スポーツをしない
人であっても、スポーツの感覚の中でそういったことにチャレンジできるような環境づくりというか。
そうなると、サッカーに進みます、バスケットに進みます、水泳に行きます、スポーツはしません、でも、そういう人材が
どんどん育って地域も活性化するのではないかとか、それによりFC東京の価値も高まり、日本のサッカーの価値も高まる。
辻 偉大なる計画だね。
石川 大きいです。大変だと思う。
辻 大学だと教育学部もあり、幼稚園の先生や学校の先生になっていく学生も多いですが、先生の果たす役割とか学校の果たす
役割とか、それこそ昔だったら地域のおじいちゃん、おばあちゃんの果たす役割があったのがどんどん減っていて、核家族化
されていたりすると、親の役割とかそういうことに関してはどう思いますか。
結局、FC東京のクラブコミュニケーターをやっていて、日本でそれが大事だとすると、俺は5万人の幼稚園の園長になるしか
ないだろうと思うとか(笑)、その辺はどうですか。
石川 僕はサッカー界の人たちとの会話もそうですが、いろいろな方との出会いがありがたいことにあり、今のような思いを伝えます。
そうすると、やはり同じです。では、学校をつくってしまえばいい(笑)。それだったらサポートする。
僕がどのような生き方をするかというのは自分でも楽しみではあるし、はっきりとした明確な目標はありません。でも、
今までやってきたように、目の前のことに対し正直に生きるという姿がいろいろ伝わったりしながら、そういう仲間や感覚の
人たちが増えていった中で、スイッチを入れるときが来るのではないか。常にスイッチは入っているのですが。
辻 常にスイッチは入っているけれども、もう一つ何かバーンといくものがあるのではないかという感じで。
石川 そう考えると、たぶん選手のときと変わらない。準備をして、そのチャンスを自分で引き寄せ「これだ」というところで自分が
つかみに行く。つかんだら絶対に離さない。
辻 もうずっとこの連続で、同じ感じですよね。
石川 同じです。
辻 社会課題とか地域課題とかに関しては、どのように感じていますか。
石川 Jリーグで言うと村井チェアマンがいますが、「Jリーグを使おう」という動きになっています。今まではJリーグのチームが地元
にあり、それは誇らしいし、ありがたいと言ってもらえるのはそうですが、敷居が高いというか。
辻 特別感が高すぎて?
石川 それはありがたいのですが、もっと一緒にできることはあるよね。そういったものを一緒にやることにより、新たな価値を見い
だす。そこでサッカーを好きになってもらうのもそうだし、応援してもらうのもそうだし、その感覚はたぶん僕の個人的な思い
と一緒で。
辻 では、例えばいまFC東京だと新しくスポンサーにミクシィさんが入り、何か違うかたちの地域課題を解決したり、クラブを
もっと利用してもらうような発想ということで、どんなことになっているのですか。
石川 そういう変化は各個人にもそうだし、クラブに対しても変化が起こっていて、それでいったらすごく大きな話になるのですが、
本当にそれこそそういう話から、今度僕がやるのは、FC東京の場合は応援していただいている市が6市あり、その市で農業体験
というか、農業を……。
辻 東京で、地域的には6つの市に応援してもらっているのね。
石川 そうです。もちろん、23区も含めてですが、6市に出資していただいていて、そのうちの一つの市の農業というか。
辻 誰がやるの?
石川 僕がやります。
辻 誰と?
石川 地元の人と、あとは農家の人と。だから、そこがまた一つで、農業や食のところでもっと身近に感じてもらう。そして、FC東京
も身近に感じてもらう。そして、農業での価値を高めるとか。だから、サッカーではないです(笑)。
辻 クラブコミュニケーターだから、別にサッカーだけではなく、コミュニケーションしていくすべての立場として登場している
のだね。そうすると、農家のおじさんとかおばさんが、「サッカー、わしは見たことはないけれど、行くか」というような感じ
で来るようになる可能性もある。
石川 そういう農家とのつながりで、FC東京の中にいる人からしてみたら、選手だったらそういう食に対しての意識とか、食べること
もそうだし、そういったところから取れることもそうだし、いろいろなところがつながっていくのですよね。そこが価値です。
辻 先ほど少し触れたのですが、ミクシィさんは何か面白いことをやっているの?
石川 面白いこと、やっています。サッカー界もバスケット界も野球界もそうですし、ミクシィさんで言うと、僕はゲームをやらないの
で分からないのですが、「モンスト」をやっている人いますか。ゲームで、もともとすごく成長した部分があると思うのですが、
結局また違うフィールドでその価値を。
だから、1人でゲームをやり、今だったら通信で世界中とつながっている部分もありますが、それは目に見えないじゃないですか。
それを目に見えるかたちでというと、今度はスポーツになるじゃないですか。それがスポーツの価値だし。
辻 一方で、ゲームはよくないというレッテルを貼られがちであるから、そうではない、ゲームがもてない部分をスポーツで社会貢献
していこうというお考えがあるのかもしれないですね。
石川 そうですね。1人ではできない熱狂がスタジアムにはある。そういったところに魅力を感じてくださって応援してくれたり、
いろいろな野望もきっとあるのだろうとは思います(笑)。
辻 いろいろ聞きましたが、クラブコミュニケーターとしての可能性や課題、やりたいことはもう無限のようにあり、実際にこれから
クラブコミュニケーターとして石川君がやっていきたいことはどんなことですか。やろうと思っていること、取り組んでいること、
絶対にこういうことだけはやりたいと思っているので、こんな準備をしているとか、これからに向けての意気込みはありますか。
石川 考え方的にはチームを優勝させようとか、世界を目指したクラブ。もちろん、それはビジョンとしてクラブとして掲げていますし、
では何をしたら、そういうかたちにつながるか。サッカーだけでは難しい。
辻 難しい。そこにすぐ行くね。
石川 はい。サッカーだけでは難しい。もちろん、サッカーはとことん追求してきたし、それでも成長曲線をどう上げられるか、高めら
れるか。いま少し頭に出てきて、その辺りは自分の話でもあるのですが、皆さんご存じの久保建英。
辻 久保君ね。
石川 彼はサッカーだけではなく、そういう感度が非常に高いので、物事を吸収したものをすぐに結果としてつなげる力がすごくあり、
だからある意味、そういう人材というか、それをどういったかたちで生み出していけるか。それは別にFC東京の選手になってく
れとかではないですが。
辻 日本にとってとか、世界、地球にとってということね。
石川 はい。そういう人が増えると自然とFC東京も強くなるのではないか。ほかも強くなりますが、その強い中で、強いもの同士がまた
高め合うことで上を目指せる。僕はそういう考えです。
辻 久保君はFC東京の選手として、バルセロナでしたか。
石川 バルセロナにもともと行っていました。
辻 今度行くのはレアルか。
石川 レアル・マドリード。
辻 バルセロナで育ち、FC東京にいて、またレアル・マドリードに行く。どうして、そういう彼が生まれたのか。もしくは、今の彼の
そういうすばらしさを石川君なりに語ると、どうですか。
石川 細かい話は彼とはしなかったです。そういった移籍の経緯に関しても、彼は一切、口を閉ざすので(笑)。でも、感覚的に
は僕も……。
辻 彼にはちゃんとエージェントがいるの?
石川 エージェントもいます。マネジメントもしっかりとしているし、ただ自分でそれができます。
辻 語学も達者だしね。
石川 はい。自分のやるべきこと、今の自分がすべきことをしっかりと見つめ、それができる。
辻 すごいね。
石川 もともとできていたわけでもなかったと思います。ただ、去年、FC東京にいたのですが、なかなか監督の求めるスタイルを出せな
くて、チームの戦術があり、その中でプレーする難しさを感じ、彼はずっと悩んでいました。グラウンドにいても、1人でボールを
触りながら。
辻 そうなんだ。
石川 そういう姿を見ていたので、FC東京からF・マリノスに移籍をしたのですね。それでたぶん自分が考えていたこと、FC東京ではこれ
はできないから、F・マリノスでやろうと思っていても、たぶんそれができなかった。
辻 できなかった。
石川 何でできなかったのかというと、チームがあり、その中でどう機能するか。今までだったら彼は自分の力を最大限出し、チームに認め
させるではないけれども、その感覚自体が変わったのですよね。チームに生かしてもらいながら、自分が生きる。生かし、生かされ。
辻 それはみんな、アスリートが成長していくプロセスだよね。自分を最大に生かすことに無我夢中になっているけれども、どこかでそれ
だけでは生かしきれないことに気づくよね。
石川 そうです。彼はある意味、苦しいときにそれに気づき、それをすぐに実行した。具体的に言うと、彼は守備が得意ではなかったし、
体の成長段階も含めて走れなかった。ただ、それを自分ができないと思って行ったところから「やれ」と言われ、まずやるように
なった。
辻 やるようになった。
石川 やるようになったら、それだけできる能力もあったのですが、もともと持っていた攻撃のセンスや、そういうものがすべて上乗せさ
れた。だから、今までここの部分だったところが、チームとしてやるべきことがこれだけあったら、それがさらにドーンと。
辻 乗ったのだね。
石川 乗った。それをあの年で、半年ぐらいで気付き、それを実行できるその速さ。
辻 会うと、印象はどんな青年ですか。
石川 しっかり挨拶するし、「おはようございます」。もう、そういう感じです。
辻 素直な感じ?
石川 素直ですね。
辻 エネルギーはすごくある?
石川 エネルギーはあります。僕みたいにブワーと出ているというよりは、うちに秘めたエネルギーがあり、それをちゃんと言語化できる。
辻 何かとんがっている感はないの?
石川 とんがっている感はないです。
辻 自然体?
石川 自然体です。ああいう環境の中で、自然体でいられるのは、いろいろ考えているのでしょうけれども。
辻 最近、世界で活躍する日本のアスリートも、そういう人がもっと増えてほしいと思います。バスケットの八村塁君もそういう感じで、
すごく自然体の感じだしね。
石川 はい。
続く・・・