カルティベイティブプロジェクト ⑦石川直宏選手への質問
⑦石川直宏選手への質問
辻 では、皆さんから、サッカーの人でもいいし、サッカーでない方々でもいいですし、体育学部の学生でもいいし、そうでなく
てもいいので、これから質問を受けてみたいと思います。遠慮せずに、せっかくだから、この際それこそつながりで、いろい
ろな壁を乗り越えて手を挙げて、学部なり部活をやっているのだったら、それも言ってもらって質問を受けたいと思います。
学生 こんにちは。サッカー部です。石川選手は長い間、現役としてやってきて、けがでリハビリの時期もあったと思うのですが、
その長い期間、現役として頑張れた理由は何ですか。教えてください。
辻 長い間、現役として続けてきた理由。
石川 自分が夢、目標をもった小学校6年生のときの思い、そのままではないけれども、自分から、つかんだ「チャンス」、夢、目標を
手放したくない。けがで手放してしまうのか、実力がなくなって手放すというか、そういう状態になってしまうことを自分は
避けたいというか、自分に負けたくない。
そういうところから応援していただいている方々の期待というか、その中でプレーというか生きる喜びを感じていたので、どんな
姿であってもそれを包み隠さず出すことにより、正直な答えがまた返ってくるのですよね。その感覚は自分が苦しいときでも、
何か変ですが、居心地がいい。自分は苦しんでいて、こんなもう……。
辻 なりがちだけど。
石川 なるのだけれども、選手は、たぶんよく見せようと思うじゃないですか。プレーヤーとしてもそうだし、自分の弱いところを見せ
たくない。でも、僕は出てしまうので、出てしまうのなら、もうとことん出そうと思い、苦しいとき、つらいとき、うれしいとき、
泣くこともあるし、喜ぶ。そこに引き付けられた方が非常に多かったのですね。
一緒に泣いてくれて、一緒に喜び、そこに価値があったからこそ、自分はもっともっとこういう経験をし続けたいなと思っていたか
らかもしれないですね。だから、自分だけではなく。
辻 でも、素直にそれを受け入れていると、そうやって応援してくれる人がいて、またそれに応えようと思い、好循環が生まれるよね。
正直にいることも大事だし、でも正直でちょっとつらいから辞めるというわけでもなく、自分が決めたことはしっかりと追い続ける。
そこの軸の中で素直に生きている感じがするね。
石川 昔はそういう目標を設定して、1週間の目標、1カ月の目標、1年の目標、4年先の目標をサッカーノートに書いていたのですが、ある
ときから書かなくなりました。そんなことに自分がとらわれたくない。
辻 それもいい話だな(笑)。
石川 でも、サッカーノートの表紙にはいつも、「平常心、それは偏らない流動自在な心の状態」は書いていました。だから、自分の目標は
たぶんそこだと思います。
辻 そこだね。それがいいわ(笑)。
石川 答えになっているかどうか全然分かりませんが、大丈夫ですか。
辻 自分が大事にできる心のテーマのようなものを、大人と会ったり本を読んだり、いろいろ探し、その心の状態自体は……。目標は追いか
けるからしんどくなったりするので、ゼロ・イチではない。目標を達成するか、しないか。それだけやっていると一喜一憂しすぎてしま
うので、自分がいつでもどこでも大事にできる、あり方のようなもの、流動自在のようなものを見つけていくのはいいことかもしれな
いね。
石川 いま何を大事にしているか、聞きたいですね。
学生 自分のプレーを貫くのを大事にしています。
辻 自分のプレーを貫く、自分のプレーはサッカーではない。サッカー選手の前に、自分がいるじゃない。自分は何を貫くのですか。
学生 自分は、やりきるところです。
辻 それだけあれば、大丈夫じゃない?
石川 僕もそうでした。やりきる。自分のプレーをやりきると、やりきったところで初めて見えるものがあるので、そこでまた新たな
アプローチをすればいいと思う。
僕はプレーヤーでいったら、右サイドをグーッと行きまくっていた。でも、分かりやすく縦に切られたら、「では、どうするの、次は」
というので、中に入り、カットインしてシュート。そこから、では別に右サイドにこだわらないで、左サイドに行ってもいいじゃない
とか、真ん中でプレーすればいいじゃないとか、少し見えてきた。
辻 それが見えてくるわけね。
石川 そのときに点を取り始めました。だから、行きつくところまで行き続けるかどうか。
辻 まずは貫き続ける。いいじゃないですか。
学生 ありがとうございました。
辻 ほかはどうですか。
学生 こんにちは。サッカー部です。2014年にJグリーンで指導者の講習会、石川選手、受けられていたじゃないですか。
石川 B級?
学生 はい。その後、S級とか取って、これから指導者という道を考えているのですか。
辻 なかなかの質問だな。
石川 そうですね、よく言われます。実は、B級のライセンスは選手のときにJグリーンで取り、A級のライセンスは去年、
受講しました。ただ、合格がまだ出ていない。
辻 A級までは受けたけれども、まだ合格が出ていないのですか。
石川 はい。僕の力不足だと思います。合格・不合格はもちろんですが、指導する上での声掛けとかアプローチとか見え方とかが、
サッカーをしていたときと全く変わってきて、誰もが言うのですが、今の感覚でまたプレーヤーとして戻ったらというのは、
すごく思うところで(笑)、そんな勝手なことは難しい。
辻 できないね。
石川 でも、自分の中では、例えばFC東京で自分が監督をやります。与える影響はすごくあると思うし、深いと思います。選手に
対してもそうだし、ファン、サポーターに対しても。
チームがあり、クラブという組織がある。僕は現役のときに、別にクラブを批判するわけでも何でもないですが、もっともっと
クラブがよくなったら、そこの中心にいるチームはもっとよくなると思ったのですね。僕はチームにいたから、チームをよく
したい。でも、そこはサッカーをやっていく中での積み上げの限界まで、僕は積み上げられたかどうか分かりませんが、組織と
してもっとよくなっていったら、もっとチームのやりやすい状況が増えるのではないかとか。
だから、自分の中ではクラブのほうのマネジメントに興味があるのですよね。指導も興味があるのですが。
辻 現場の監督やコーチの指導よりも、それが乗っている土台そのものに興味があるのだね。
石川 そうです。だから、監督、コーチ、選手がもっとやりやすい環境をどうつくれるか。そちらに自分は興味があります。だから、
S級は、僕は膝が痛くて……(笑)。
辻 S級だと、自分もやらなければいけないの?
石川 もちろん、そうです。A級もそうです。だから、まずはA級に合格できるように頑張ります(笑)。
辻 ということらしいです。
学生 ありがとうございます。
辻 すばらしいですね。だから、そこだけに考え方がとらわれていないのだね。
石川 でも、選手として貫いてやってきたプロフェッショナルとして、ある意味、僕は超特徴的な選手で分かりやすい。だから、これか
らやることも分かりやすいほうに行くのではないかとは思います。
その上で、自分はそういうパワーのインプットをして、そこに向かっていくのではないかと思いながらも、結構反面教師で、指導
者の方って僕はいろいろ見させていただいていますが、すごく攻撃的な選手だったけれども、監督になったら守備的になるとか。
辻 あるね。
石川 うちの長谷川健太監督は守備が相当堅いですが、もともとフォワードなので、相手の守備にこういうことをされたらいやだと分かる
のではないかと勝手に思っています(笑)。
辻 それ、面白いね。サッカー選手を貫いていたから、逆にサッカーチームはクラブの上に乗り、クラブは地域の上に乗り、地域は日本の
上に乗っているから、むしろこれを貫いている石川君だからこそ、何かまた違う、先ほどの反面教師という言葉が合っているかどうか
分からないけれども、そちらの視点をシンプルにやる感覚も分からないでもないね。
石川 そこの整理というか。でも、自分は感覚的にそういう感じです。
辻 それは伝わった。
学生 こんにちは。サッカー部です。石川選手が今まで一緒にやってきた選手の中で、プロ意識がいちばん高かった選手は誰でしたか、
教えてください。
辻 プロ意識だって。
石川 最初からプロ意識が高い選手は、あまりいないですね。何かをきっかけに変わる。試合に出られないことなのか、けがなのか。
でも、そういう部分で言うと、早くからそれに気づいて日々進化しているのは長友佑都ですね。
辻 いいね。
石川 彼は本当に何でも貪欲です。何でも得ようとします。これは本当にそれこそスポーツのよさで、年齢、立場、関係なく、人のこと
を上からとか下からとか、そういうものは全くフラットに見る。だから、僕も接していて心地いいです。
辻 日本男児ね。
石川 そうです。だから、彼は今ああいうかたちでキャリアを歩んでいますが、彼がいちばん最初に来たのは明治大学に在学中で、
FC東京強化指定になったのですが、彼はたぶん腰をけがしていて、ずっとサッカーをしていなかったのですよね。有名な話で
すが、試合で太鼓をたたいていた。
辻 応援することを全力で。
石川 はい。その後にけがも癒えてFC東京の練習に参加したのですが、それも僕の話とかぶるというとあれですが、強化指定でパッと来て、
いきなり一番声を出していた。「もっと寄せろ。ボランチに寄せろ」とか、「えっ、何? こいつ」と思って。
その後に紅白戦があり、当時FC東京でいちばん速い外国人の選手がブラジル人でいたのですが、めちゃくちゃ速いです。そのメチャ
クチャ速い外国人を、スピードで止めました。
辻 すごいね。
石川 もうその瞬間から、当時、原監督だったのですけれども。
辻 当時も原監督だったのだ。
石川 そうです。メンバー入りして、試合に出て。2007年で翌年、2008年かな、FC東京に正式に加入して代表まで行きましたからね。
そして2009年にイタリアに行き、インテルに行って。
辻 すごいですよね。ビームだね。
石川 彼はそういう貪欲さと、いま最新のものはあるけれども、もっといいものがあるのではないかという追求がすごい。自分で感覚的にいい
ものって、それをやり続けてみようと、それが心の支えになったりするじゃないですか。そして、新しいことにチャレンジすることは、
変化も生まれるし、怖さも出る。でも、その怖さよりも、自分はもっと知りたい、もっとよくなりたいという欲のほうが強い。
辻 すごいね。
石川 いまだにそうです。だから、僕にもよく聞きます。僕が例えばFacebookとかそういうので何か発信すると、「えっ、何ですか、それ」
とか連絡してきます。
辻 貪欲だね。チャレンジの鬼だね。それも自然体でいるからという感じもあるね。
石川 彼は自然体ですね。
辻 最後、お願いします。
学生 男子バスケットボール部です。スポーツマンだったら誰しも指導を受けている中で、スポーツしているときと日常生活はつながるとい
う話を多々耳にします。24時間サッカーと向き合うわけではないと思いますが、サッカーから離れている時間で意識したことや、
どういう考え方を持って行動していたのかを教えていただけたらうれしいです。
石川 もちろん、選手としてやるべきことは理解していましたし、そういう見られ方もする。ただ、僕としては、サッカー選手の石川直宏
という見方ももちろんありがたいし、うれしいのですが、一個人としての石川直宏を見られたときの評価というか、「あっ、サッカー
していたのだね」。だから、サッカーを知らない人との関係のほうが心地いいというか、サッカーを詳しくしゃべられても……。
だから、選手によると思います。自分のことをもっと、「俺の事、知っているだろう」というような。
辻 「俺、サッカー界では有名だし」みたいなね。
石川 僕からしてみたら「いやいや、世の中的に全く有名ではないし」というような。
辻 そうよね。
石川 だから、そういう部分でいったら、そこでオンとオフが切り替わっているというか、ピッチに入ると……。
僕はプロになったとき、契約のときですね。今でも覚えていますが、ふだんの自分とピッチに入った自分と変われば変わるほど、それ
こそがプロフェッショナルだ。いい意味で、変える。普段おとなしい人が、ピッチに入ることにより、人が変わったように勝負に対し
貪欲になるとかガツガツ行くとか、そういったオンとオフが僕の中ではあればあるほど。
だから、オフといっても、オフだから好き勝手にやれとかではなく。
辻 オフは何かあるの?
石川 オフは自分の趣味だったり、あとは人と会うことだったり、こもることは自分の中ではなかったです。それが自分のリラックス方法
だった。性格的にも選手もそうだし、それぞれいろいろあると思います。だから、自分はどこが、居心地がいいか。居心地がいいとい
うと、「では、飲みに行きますか」というのが、居心地がいいとなるのはあれですが、僕はそういうことよりも、何だろな。自分の趣味、
本を読むこともそうだし。実はサーフィンが好きで、サーフィンにつながる仲間とかも現役のときからいたのですが、サーフィンという
と「けがするからやめろ」とか言われたりもするのですが、いやいや、僕だって心地いいしパワーがたまるからさせて(笑)。
けがしたら自己責任だから、お勧めはできないですが、そういう趣味を持ったり、心地いい人とだけ接するのもどうかと思いますが、
いろいろな人に出会う。もう出会っていると思いますが、そういったところかな。
辻 日常の中でも自分の心のビタミンになるようなものを欲して、欲求していく感じだよね。
石川 だから、そこはオフになっているのですが、変わらないですね。
辻 そう、オフになるけれどもね。
石川 それはオフかな。でも、オフなのか。
辻 サッカー部にしてみれば、石川君は超スゲーなと思うけれども、全然知らない教養学部の女の子からしたら、「すごい日に焼けている。
何で髪の毛、伸ばしているのだろう、このおやじは」というようなことだものね。どちらも石川君だものね。
石川 それが僕にとっては心地いいです。そのように接してくれるほうが。もちろん、選手としてリスペクトをもって接してくれることもそ
うですし、でも別にそこにとらわれないです。
答えになっているのかな。ちなみに、どのように考えていますか。学校があり、スイッチを入れる場所と、バスケットが終わって普段の
生活、そのバランス。
学生 自分は、バスケは小さなミスで負けたりしたりするので、日常生活からそれにつながりそうな小さなミスとか判断の仕方とかを、自分は
意識して生活しています。そして、先ほどお話ししていただいたようにオン・オフの使い分けや、趣味を嗜むというか、その時間もこれ
から大切に楽しんでいきたいと思います。ありがとうございました。
石川 そう、楽しむ。
辻 楽しむだね。エンジョイライフだね。プレーだからね。プレー・サッカー、プレー・バスケットボール、プレー・ライフだからね。
プレーできないとだめだね。
石川 そうですね。楽しんで、しかもその楽しむ質。先生はよく言うのですよね。クオリティ・オブ・ライフ、その質ですよね。
辻 そこを言ってくれてありがとう。
石川 いやいや(笑)。まさにそのとおりだと思います。
辻 では、最後。いろいろなところで講演したり、コミュニケーションしたりするといったけれども、意外に大学生に直接話すことは少ない
と言っていたので。
石川 大学生はもしかしたら初めてかもしれない。
辻 ほんと? 大学生、やったな。石川直宏の初の大学生講義を聞けたということで、最後にメッセージをいただいて終わりたいと思います。
どうですか。
石川 散々話をさせていただいたので、別に僕はすべてが正解ではないと思っているし、すべてを受けて形にしようというのは皆さん思っていない
と思いますが、何かしらのきっかけの一つにしてほしい。
辻 きょうの、今回をね。
石川 僕は自分の経験だけを話すというよりは、皆さんが何かを感じ、すぐに実行できること。今からでもそうだし、そういったもののきっかけに
なってほしいと思うのですよね。だから、サッカーをやってきて、サッカーの技術がこうでした。グラウンドでそういうことを知りたいと言って
もらえれば、もちろんそれは、僕は伝えますし、表現しますが、そういったところではなく、今回のこういったご縁だったり、タイミングで
皆さんと出会えたのは、何度も言うように必然だと思いますし、そういったものを大切にしてもらいたい。
僕は皆さんと出会えたことを大切にして、また次のステップにしたいし、またどこかで成長した姿で会えると思うので、そのときに。
そうだ、何でJグリーンにいたの?
学生 集合写真を撮るときに、びわこ成蹊の大学生も一緒に撮りたいからって、集合写真に……。
石川 そうなんだ(笑)。すごい縁ですね。そして、またここでこうやって出会えて、話ができたのもそうだし、お互いがそういうものを引き付け合う
ところを大事にしてほしい。勝手にくる縁ではなく、自分がそういうチャンスを見つけてモノにする。その縁を大切にすることにより、そういう
ものが生まれるかと僕は思っているので、一つひとつを丁寧に心地よく、チャレンジしてほしいと思います。体現するのは難しいですけれどもね。
辻 難しいけれども、心がけていくしかないので。
ということで、第1回カルティベイティブプロジェクト、ゲストはクラブコミュニケーターの石川直宏君、テーマは「コミュニケートとスポーツ」
ということで、終了したいと思います。皆さん、石川君に拍手をお願いいたします。
石川 ありがとうございました。
終わり